快感春画展

一見すると年上の女性が行水してゐる所に若者が忍び寄り、悪戯（いたづら）を仕掛けてゐるやうにも見えますが、
書入れを読むと情況はまつたく逆です。

女主人 「長吉（ちやうきち）や」

長吉 「ハイハイ」

女主人 「雷さまの鳴らぬうちに行水を了いたいから、早く流してくれや」

長吉 「ハイハイお手拭をお出し下さいませ」

女主人　「ヲヤなぜ、あなたので流してくださいよ」

長吉　　　「ハイハイ私のはたいへん汗がしみてをります」

女主人　「ヲヤをかしな子だ。その汗のしみてゐるのいいんだヨ」

長吉　　　「もし奥さん、そんなことおつしやって、男の手拭いは男根を拭いたりもしますので・・汁なども付く事が」

女主人　「おお、その汁が望みじゃならどうするな」

長吉　　　「ハイ、お望みならばこういたします」

女主人　　「ヲヽうれしい。どうでもしや。サアかうだヨかうだヨ」

長吉「ハイハイそんならいつそかういたしますヨ」ト、尻から生（お）へきつた一物をぐつと突つこむと、湯できしんで喰ひ締める。

女主人「フヽヽヽウ」グスグスグス「アヽアヽ、アレ光つたヨ」

（雷）グハラ・グハラ・グハラ、ピシャ・ピシャ。「ヲヽ恐（こは）かつた」

長吉「アイサようござります」グッスグッス、グスグスグス。

女主人「アヽヽヽモウ、あれ又光つたヨ、フウフウ」ぬらぬらぬら、ピチャピチャピチャ。「アヽアヽヽくわまら、くわまら」


（雷）ピカピカピカ、ドロドロドロ、ゴロゴロゴロ。




長吉「蒸立てのお饅頭（まん）の中へ寒晒（かんざら）し白玉をはさんだといふ代物（しろもの）、古今の上開（じやうかい）だ。
アヽ旦那が最近中風（ちゆうぶ）になられた筈だ」クチャクチャクチャ。

女主人「それにしても江戸つ子とはいひながら、シヤンとしてゐて大きな「頭」で、そしてむやみに毛が生（お）えたところが
、たいそう粋なまらだヨ」



　いかにも北斎の書入れらしく、露骨でしかも擬音語や擬態語がふんだんに用ゐられてゐますが、要するに戯れを仕掛けたのは女主人の方からなのです。夏の夕方、行水をしてゐた女主人が日ごろから目をかけてゐる奉公人を呼びつけ、背中を流させながら誘ひ掛け、その気にさせて楽しんでゐるのです。亭主は中風で役立たずのやうですから、これは間男といふより摘喰（つまみぐ）ひといつたところでしょうか。